いて見た――あい形をしたのをねえ、
美くしい稚子がその前に座って舞楽を奏した時代がしのばれますよ、
あの時代には御飯なんか喰べずとも生きて居られた様にさえ思えますねえ。」
千世子は細い目をしながら云った。
「雨のしとしとと降る日なんかねえ、
一寸思いがけない処で三味の音をきくと思わず足が止まります。
『つばくろ』を抱えた娘になんか会うと羨しい気持がしますよ、
あの細っかい旋律が私の心に合ってるんです。」
「篤さんは?」
「何んでもです、
何んでもすきなんです。」
「貴方の奥の手ですよ、
でもあんまりいいこっちゃあありませんねえ。」
千世子はかなり真面目な調子で云った。
篤は少し顔の筋をつめた。
でも千世子はすぐ笑いながら大きなおどけた調子で云った。
「貴方は万事万端その調子で切りさばいてでしょう?
中々どうしてどうして。」
「そんな事って。」
篤は間の悪い顔をして笑った。
「まるで違う事ってすけどねえ、
あんまりこの頃あがりつづけたからこんどは少し間を置いてからに仕様ってね、
今日も云ってたんです。」
肇は篤の方を見ながら云った。
「そうですか。
そん
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