ワフワ毛になるに間もありますまい。」
 そしてそのかなり調子のなだらかな言葉を自分の髪の中に編み込む様に耳を被うてふくれた髪を人指指《ひとさしゆび》と拇指の間で揉んで居た。
 のけものにされた様にして居た篤は千世子に髪の結い方をきいた。
「何んになさるんです?
 私の髪なんか。」
「何て事はないんですけど、
 あんまり見ない形だから。」
「そいじゃあそのまんまにして置いた方がようござんすねえ。」
 千世子は人の悪い笑い様をして話そうともしなかった。そして足をコトコト云わせながら低く子守唄を歌った。
「いかにも子守唄らしい歌ですねえ、
 むずかしいんですか?」
 肇はしずかに云った。
「いいえ何んでもないんですよ、
 教えてあげましょうか。」
「でも駄目らしゅうござんすねえ、
 まるで素養がないんですもの。」
「音楽なんか君天才さえ有れば鳥の歌をきいてたって名人になれるさ。」
「その天才がてんでないんだよ。」
 三人は取りはずした様にフフフフと笑った。
 それから三人の間には音楽の話が始まった。
「私はね、
 あの火焔太鼓や箏なんかがどうしてもいいと思いますよ、
 あの何となし好い色の叩
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