椅子によって柔いクッションに黒い髪の厚い頭をうずめて一つ処を見つめて話しつづける肇は自分で自分の話す言葉に魅せられて居る様に上気した顔をして居た。
千世子はだまって肇の長い「まつ毛」を見て居た。
自分の過去なり現在なりをまがりなりにも幾分かは芸術的なものに仕様として居る肇の事だから誇張して云って居る処が有るかもしれない。
けれ共肇の話す生い立ちは「うそ」にしろ「出たらめ」にしろ気持の悪い作り事ではなかった。
下らないわかりきった事に「いい加減」を云われると千世子は「かんしゃく」を起したけれ共美くしい幾分か芸術的な「うそ」は自分もその気になって聞く事がすきだ。
自分の前に居るまだ二十一寸すぎの青年とその話しとを結びつけて種々な想像を廻らして千世子はなぐさんで居た。
だまって自分の古い思い出をたどって居た肇は今にも涙のこぼれそうな声で云った。
「もう四月も過ぎますねえじきに――」
「そうですねえ、
桜も散りました、
タンポポだってフワフワ毛になるに間もありますまい。」
千世子はいつの間にか大変デリケートな気持になって居た。
も一度心の中で繰り返した。
「タンポポだってフ
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