山しゃべった。
いつも無口な肇は、
「私は今日どうしたんだかほんとうに気が軽いんです、
いくらでも話せそうなんです、
ほんとうに好い天気なんですもの。」
うるんだ様な眼をして軽く唇を震わしながら云って二人に口を開く余地を与えないほど続けていろいろの事を話して聞かせた。
自分がこんな影の多い人間になったのは大変病身だったのでいつでも父母をはなれて祖母の隠居部屋で草艸紙ばっかり見て育ったのとじめじめした様な倉住居がそうしたのだとも云った。
「よく伯父が云いますけど、青白い頸の細い児が本虫《しみ》のついた古い双紙を繰りながら耳の遠い年寄のわきに笑いもしずに居るのを見るとほんとうにみじめだったってね。
でも私が今思い出せるのは倉の明り窓からのぞいた隣の家の庭だけです。
まるで女の様に静かに育ったんですからねえ。」
「そんならも一寸しなやかな名をおもらいんなりそうなもんでしたのにねえ、
随分いかつい名じゃあありませんか。」
千世子は笑いながら云った。
今持って居る守り札の袋は祖母の守り剣の錦で作ったんだとか祖母も眼の細い瓜ざね顔の歌麿の画きそうな美人だったとも云った。
青い
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