は顔があつい様な気がした。
「何故外へいらっしゃらなかったんです、
木の葉がいい気持だのに、
こんな処に居るより倍も倍もいい気持ですよほんとうに――」
「そうでしょうねえ、
でもテラテラした処を歩いて来たから斯うやって静かな間接に日光の入る処の方がいいんです。
せっせっと歩くと汗ばむ位ですもの。」
「急いで来もしないのに……」
肇はいかにもせっせっと来た様な事を大仰に話す篤の顔を見て笑った。
「おいそがしいんだから一寸の時だって無駄にゃあ出来ませんねえ、
篤さん。」
千世子が咲いた花の様に笑うと部屋中にパッと光線《ひかり》が差しこんだ様に二人には思えた。
むしむしすると云って二人が着て来た羽織をぬぐと前にもまして肩や腰のあたりがすぼけて見え袴の腰板がやたらに固そうに見えて居た。
「やせていらっしゃるんですねえ、
でも骨太だからやっぱり女とは違いますねえ、
目方なんか軽くっていらっしゃるんでしょう。」
自分の肉つきの好い丸っこい肩に両手を互え違えにして体を左右にゆりながら千世子は云ったりした。
女中の持って来た湯気の立つお茶なんか見向きもしないで三人はいつもより沢
前へ
次へ
全27ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング