指のオパアルがつつましく笑んで居た。のびやかな、明るい、千世子の姿に吸いよせられた様に二人はジーッと見て居た。
 実際又美くしかったに違いない。
 千世子自身も、世の中のあらゆる幸福が自分を被うて他人《ひと》より倍も倍もの恵を下されて居る様に感じて居た。
 殆すべり出る様にしての歌は心をそーっと抱えて遠い処へ連れて行きそうであった。
 春の力強い陽気な日光は千世子のまわりを活溌に踊り狂って居た。
 だまって見て居た二人は急に首を引っこめた。
「見つけたねえ。」
「そりゃあそうさ!
 こっちを見て笑ったんだもの。」
 二人はほんとうに只好い天気に誘われて子供っぽい悪戯をしたにすぎなかったけれ共気の小さい肇はこんな処からのぞき見なんかして居た事を千世子は必ず気持悪く思って居るに違いないと思った。
 千世子が庭つづきの戸から入って来た時何にも知らない様な顔をして、
「今日は、」
「度々上りますねえ。」
と篤が云うのを赤い様な顔をして肇は聞いて居た。
 千世子は別に気にして居るらしい様子はなかった。
 微笑みながら肇に千世子は云った。
「さっきっからいらっしゃったんですか。」
「ええ。」
 肇
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