いよ。」
「女だもの。
 そんなするもんかねえ。」
 しばらくだまって居て、
「ほんとうにどうしたんだろう。」
 篤は思い出してする欠伸《あくび》の様に云った。
 肇は返事をしずに何か聞いて居た。
「何だい?」
「何が聞えるの?」
 二人の耳には厚い木の葉の重なりを透して千世子が歌をうたって居るのが響いて来た。
「外にやっぱり居たんだねえ。」
「ほんとうにねえ。」
 肇はガラス戸をあけて体を乗り出して木の幹の間をすかして裏庭を見た。
 木蓮の葉のまっ青な群の下に籐椅子を据えて「ひざ」の上に本をふせたまんま千世子は何か柔い節の小唄めいたものを歌って居た。
「見えるの?」
 篤は重なって肇の頭の上から千世子の様子を見た。
「いつもより奇麗に見えるねえ。」
「ああ。」
「何故なんだろう。」
「女の人なんか日光《ひ》の差し工合だって奇麗にもきたなくも見えるもんだよ。」
「随分若く見える。」
 千世子は茶っぽい銘仙のぴったり体についた着物を着て白っぽい帯が胸と胴の境を手際よく区切って居る。きつくしめられた帯の上は柔かそうにふくれてズーッとのばして膝の上で組み合わせた手がうす赤い輪廓に色取られて小
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