一層低くして云った。
「一体あの人は何故あんな風をしてるんだろう。」
「あんな風って。」
「髪だってああ云う風に結ってるしさ、
何だか違うじゃないか、
それにあの人はどんな時でも右の小指に小さいオパアルの指環をはめてるねえ。」
「すきだからだろう、
髪だって指環だって好きだからああやって居るんだろうさ、
気んなるんならきいて見るといい。」
二人は静かに歩きながら千世子の事についてぼそぼそと話し合って居た。
千世子の家の前に来た時二人は一寸たち止まった。
そしてどっかの迷い猫が眠って居る花園のわきをしのび足で通って落ついたしっとりした書斎に入った時千世子は居ないで出窓のわきに置いたテーブルの上の開かれた本が淋しそうに白く光って居た。
「どこへ行ったんだろう。」
「何!
じきに来るさ!」
家の中はひっそりして人の居るらしい様子もなかった。二人は書架をのぞいたり開いた本をひろい読みしたりした。
かなり時が立っても千世子は見えなかった。
「間が悪いものになっちゃったねえ。
まさか何ぼあの人だってあけっぱなしで他所へ出たんでもあるまいねえ。」
「だが、暢気なんだからわからな
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