い天気だった。
 肇は目覚めるとすぐ、
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 ああ、どっかへ行って見たい天気だなあ。
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と思った。
 そして第一頭へ浮び出たのは千世子の処であった。
 けれ共此頃あんまり千世子の処へ行きすぎたと云う事を自分でも知って居る肇は今日も行くと云う事が何となし一つ所へばっかり引きよせられて居る様で篤を誘うのも間が悪い様な気がしたしあんまり意志が弱い様な気もした。
「行きたかったらどっかへ行けばいいさ!」
 そんな事を思って肇は午前中はかなり力を入れて翻訳物をした。
 二時頃になると肇はとうとう篤を誘って千世子の処へ出掛けた。
 道々肇はこんな事を云った。
「今日はね、
 ほんとうは行くまいと思ったんだよ。
 だけどやっぱり出て来ちゃったねえ。」
「そうかい、
 ほんとうにこの頃は随分ちょくちょく行くねえ、
 あの人は遠慮なんかしないから邪魔だったらそう云うだろうさ!
 だからいいやね。」
「だって邪魔だなんて云われるまで行くなんてあんまりじゃないか。」
 二人はだまってポクポクと広い屋敷町を歩いた。
 しばらくたって肇は篤の顔をのぞく様にして低い声を
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