がりもしない様子を図々しいなあとも思ったけれど心強い様にも思った。
 翌日の午前、宿へ電話をかけてから千世子は二三枚の着換とその他の細っかいものを入れた。
 そして女中に留守中の小使銭をわたし、来た手紙の至急なのはあっちへ送る様にそうでないのはこれに入れて置いてお呉れとわざわざ小箱を出してやったりした。衣裳戸棚やその他のいらないものへ鍵をかけてそれを帯上げの前の方へ巻きつけながら、
「出窓をあけっぱなしに仕ておいちゃあいけないよ、林町から誰か来て居る時でなけりゃあ出ない様にね。」
 なんかと云った時にはつくづく女主人と云う気持を味わった。
 忘れるといけないと思ってわざわざ向うの所を書いて女中部屋の柱にはりつけさせた。
「それでも失くしたらね、
 林町で聞けばすぐわかるよ、
 私が海へ行くと云えばきまってるんだから。」
 千世子はたった一人二時の汽車で立ってしまった。
 汽車の中で約束違えをして来た例の二人に葉書を書いた。
「お約束を違えましたが今日小田原へ立ちました。
 二十日ほど御幸ヶ浜の養生館に居ます。
 書架が開いてますから留守へも行ってやって下さい、
 女中が淋しがってましょ
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