んじゃあなし、一度云えばわかって居るのに。
[#ここで字下げ終わり]
にかび顔をして土産に持って来た柿羊羹のヘトヘトになった水引をだまってひっぱって居た。
自分の云いたい事をあきるまで云って仕舞うと父親は娘に云いたい事があると云って女中部屋に行ってしまった。
千世子は元の場所から動こうともしないで柿羊羹の箱を見ながら取りとめもない事を考えて居た。
斯うして女中と二人きりで暮して居る千世子にとっては女中と云うものは只単に召使と云うばっかりのものではない。
千世子は家事なんか世話をやかないから食事の事や何かはすべて女中に任して居る。
気の利く、なるたけ奉公人根性のない、気の置けないものが必用である。
さきなんかは少しは千世子の望むのに近い女である。かなり気も利くし、気が置けないと云う点はこの上なしであった。
あけっぱなしで居ながら一度二度、世帯持になっただけにかなり上手にきり廻して居た。
机を掃除する事でも、好き嫌いでももうすっかりわかって千世子が七日に一度と、かんしゃく、を起さずともいい様にまでなった。
それを手離すと云う事はかなり辛かった。
さきだってまた、夜こそ
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