方で虫が好かないで離縁して仕舞い二十二の時二度目のが来たけれ共石女だと云って自分から出て行ったんだと云った。
それからその男にひどい目に会わされたんで婿なんか取るもんじゃあないとあきらめた様にして今まで一人身で居たけれ共もう年が年だから今度の話は先が承知するとすぐきめてしまったんだと不幸な娘を持った年寄の父親はうるんだ声で千世子に話してきかせた。
休職の海軍軍人で小金の有る内福な事を繰返し繰返し云ってから、
「一刻も早くはあ孫の顔が見たいばっかりで、」
と涙をこぼして居た。
千世子は耳遠い年寄にわかる様に一言一言力を入れて自分の暮しの様子なんか話して、
「何より御目出度い事だから今すぐにも帰してあげたいんですがねえ、
斯うやって私一人で居るんだから女中無しじゃあ一時だって困るんですよ、
だからもうかわりの女をたのんでありますからそれが来たらすぐ返しましょう、
それでいいでしょう。」
我ながら可笑しいほど主人ぶって押えつける様な調子で云った。
年寄はまた三度目を繰返してなるたけ早くまとめたいとばっかり云った。
千世子は、
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返してやらないって云う
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