十一二で際立って美しい素直な金髪を持っていた。紺サージの水兵帽からこぼれたおかっぱが、優美に、白く滑らかな頬にかかっている。男の子のようにさっぱりした服の体を二つに折り、膝に肱をついた両手で顔をかくしている。彼女は、正直な乱暴さで、ぐいと、左手の甲で眼を拭いた。二人の大人が云うことに耳を貸さず、むっとした憤りを示して動かない。頑固な様子の裡に、私は一種気持よい強さと、清らかさとを感じた。どういうことで少女が泣き出したのか。まるで前後の事情を知らないのに、私は彼女が全く理由なしに拗ねているのではないこと、彼女は本気で、悲しさより何かの苦しさで泣いていることを感じたのであった。
 私は、瞬間、露骨に好奇心を表して見物している者達を手厳しく、
「さあ、どいて下さい。見世物ではない」
と、追い払ってやりたいように感じた。
 きっと、少女は母と、母の友達である見なれた婦人と、始めて物売りに出て来たに相違いない。家で――恐らくはどこかのひどい下宿屋か、共同生活の一隅で――その話が出た時、少女は、一寸面白がり、行って見てもわるくはない位に思ったのだろう。ところが来て見ると、正当に育った子供の本能的な
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