愧しさや気位や人みしりが、俄に彼女に堪らない思いをさせ始めたとしか思われない。母達が、折角来たのだからと勧めているうちに、滅入って泣出したのか。それとも――。私は歩き出し、ひどく心を捕えた少女のために一人の群集を減しながら考えた。どこかの馬鹿者が、彼女の手から、いずれ見事ではない売り物を買ってやる代りに、何か無礼なことでも云ったか、仕たか仕たのだろうか。それで彼女は泣いているのではなかろうか。
 子供の時に感じる苦痛は空から地面まで一杯になって押かぶさるようだ。大人の常識が不合理ときめる理由や感情が、子供にとって充分の理由であり、真実であり、而も大人を納得させるだけの語彙を欠いているばかりに、私共、総ての子供はどんなに苦しい思いをして来たことだ!
 二三日その少女のことが忘られなかった。次に、夜、出かけた時、私は電車を降りるとから、山崎の角に目をつけた。彼女はどうしたろう? いるだろうか、いないだろうか。鋪道を彼方に越すと私は一目で、あの金髪と紺の水兵帽とを認めた。今夜、彼女は泣いてはいない。もう少し先刻来たものと見え、先夜の連れと、一つの籠をとり巻いていた。紅色帽の女が、何か云いなが
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