ら、小さい見栄えのしない花束を二つずつ少女の両手に持たせた。そして、肩を押すようにして人通りの方に行かせた。私は、興味を持って、少女を見守った。僅な三四日のうちに、彼女はもう上手な花売りになったのだろうか。
雑踏する散歩者の群に入ると、彼女は、まるで自信のない、躊躇に満ちた足どりで歩き始めた。両手には、持たせられた花を二束ずつ持ちあげたまま、むきな、真面目極る顔を心持うな垂れて、のろのろ歩く。数人が、けげんそうに振向いて眺めた。七八歩行くと、彼女は何か考え沈んだ風で、群集から脱れ、とある化粧品店の飾窓の方に行った。彼女の両手は下り、四束の花――彼女にとって大切な筈の商品は――気もなく指先きにやっと掴まれている。
私は、彼女が、どうやって人を呼びとめてよいのかも見当がつかないでいることを知った。母やつれの女が、こう云えとは教えただろう。が、彼女の唇から最初の一声がどうしても出ないのだ。もういやというのは余り生活の苦しさや、彼女の助力の必要を理解した。だから彼女は泣いたり、愚図つくのを恥じている。然し、見も知らぬ通行人を、止めようとすると、云い難い外国語が、彼女の細い真直な少女の喉元を
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