塞げるのだ。彼女は矢張り下手な売り手であった。そして、下手さは、清げなおかッぱや、或る品のあるきりっとした容貌と決して不釣合ではない! 私は、却って彼女のそのぎごちない、少女らしいぷりぷりした処に愛を感じた。若し、思い設けなかった愛嬌で媚び笑いながら、彼女に今夜花束をすすめられたら、私は寂しくなり、恐らく買わずに過たろう。私がいつもあの婦人帽をよけて通るように。
私は、気をつけてさり気なく、気難しげに佇んでいる少女の傍に近寄った。
「その花を下さい」
少女は、びっくりした表情で、私と自分と手に持っている花束とを見較べた。私は、思わず微笑して、繰返した。
「その花を二つ下さい」
少女は伏目になり、非常に美しい表情をちらりと頬に浮べ、私に花を渡した。
「いくら?」
「一つ十銭」
私は、内にこもって来る感情で十銭銀貨を二つ、彼女が真直ぐに出した掌に置いた。
私は無器用に水色の紙テープで引くくった桃色と赤のスウィートピーの小さい花束を大事に持って帰って机の上にさした。
[#地付き]〔一九二四年十月〕
底本:「宮本百合子全集 第十七巻」新日本出版社
1981(昭和56)年3
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