したところで二二ガ[#「ガ」は小書き]四、四円。一月で百二十円! ふうむ」
三月の或る晩、私は従妹や弟と矢張り尾張町の交叉点で電車を降りた。
暫くどっちに行こうと相談した結果、先に、山崎の側を――そちらに夜店が出ていたから――京橋詰まで行き、戻りに新橋まで帰ることになった。
私共は、快活な散歩者らしい様子で気軽に十字路を横切った。そして、鋪道に溢れるような人出に紛れ込もうとした時、私はふと、山崎の陰鬱に光る大飾窓の向い合った処に、一人日本人でない露店商人がいるのに目をつけた。
そこは私が見てさえ、商売上得な位置とは思えなかった。車道を踰《こ》えて鋪道にかかったばかりの処だから、頻繁な交通機関をすりぬけるに幾分緊張した交通人達は、大抵一二間ゆとりない惰力的な早足で通り過た。彼等は、勿論薄暗い左手の街路樹の下に、灯もなければ物音も立てず、しんと侘しげな小露店があることさえ殆ど心付かない。蛾のように、明るさに牽きつけられた者は、前方にいそぐ。どういう拍子か私の目を止めた外国人の貧しい露店は、そんな損な処にいる上、実に小さな、飾りけないものであった。
店と云えば、僅か二尺に三尺位の
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