小間使い風の娘が、思いがけず、恐らく彼女の目から見ると奇麗な西洋人に勧められ、人中ではあり断り切れず真赤になり、まごついて画報と引かえに金を払うのを見た。買う方も、売る方も極り悪く、辛そうに見えた。僅か一二分の交渉であるのに、売りてと買いてを、人がたかってさも事件のように取巻いた。
私は、その人だかりの外を廻って車道を越した。その時から、一つ場所に漂っている背高い婦人帽の頂を認めると、私は、鋪道を彼方側に越すことにした。
こちらまで、妙にばつのわるい思いをするように、ばつのわるいすすめようを私はされたくなかった。断れきれず(多分私も)赧くなり、欲しくないグラフィックを買わされるのも快くないに違いない。よけて通りながら、心の底で私は彼女について無頓着にはなれなかった。いつも、何処か翳った心配めいた心持で、根気よく通行人を止めてはその前で傾く婦人帽の運動を見守った。彼女はその時、片言に出来るだけ愛嬌をこめて、
「この本いりません? 二十銭…… どうぞ」
と云っているのだ。
電車に乗りながら私は屡々考えた。
「一体どの位売れるものかな。皆で二十冊位しか持ってもいないようだが――二十冊に
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