特に、将来自分がいつかは経験しなければならない愛する人々との別離に対してどんな用意があるだろうか、ということが考えられた。祖母との訣別は思いのほか強く私を打った。祖母でさえそうだ。まして、自覚し思い込んで愛している幾人かの愛する者との別れが、不意に来たら、自分はどうするだろう。この恐怖は、祖母の葬送前後著しく私を悩した。それを考えると、自分の健康なのが却って重荷のようで、涙が出た。私が先に死ぬのであったら、一番よい。愛する者を次々に送って、最後に自分の番になる寂寥を思うと殆ど堪え難く成った。
 日数が経つと、そんな感情の病的に弱々しい部分は消えた。私は再び自分の健康も生も遠慮なく味い出した。私はやはり日向で、一寸したことに喜んで、高い声をあげてはあはあと笑う。
 祖母は、水に棲む貝で例えれば蜆のような人であった。若し蜆が真珠を抱くものとすれば、それは私に対して持ってくれた一粒の愛だ。
 通夜は賑やかであった。私は眠れず、二晩起き通した。人々は、種々雑談した。自分も仲間に成って話しながら、そこに祭られている当の祖母について誰一人何の思い出らしいものをも話さないのを侘しく感じた。祖母は全然
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