ないから下らない気兼苦労をする人であった。私は、彼女の総てに朗々としないのが大嫌いであった。妙なことに拘わって、忍耐強い性格のまま執念くやられると、私は憎しみさえ感じた。そして、怒った。怒りながら、私は祖母のために、編ものをした。細かい身の廻りのことにおのずから気がついた。
「いやなお祖母様。この装でお出かけになる積り? 駄目! 駄目!」
 祖母は、ちゃんとした服装を一人でととのえることを知らないらしかった。手荒いように、然し念を入れて、私が襟元などをよくなおした。祖母と私とは、そういう心持のいきさつなのであった。変に哀れっぽい乾からびたパンを見てから、私の裡に在る真実が自分でも判らない一杯さで心に溢れて来た。いやなおばあちゃんという点は依然としてあるが、厭でもよいというような気持、ただ可哀想という心持。――
 父は急いで九州から戻った。帰った日から祖母の容態が進み、カムフル注射をするようになった。十中八九絶望となった。祖母は、心持も平らかで、苦痛もない。私は、父の心を推察すると同情に堪えなかった。父は情に脆い質であった。彼にとって、母は只一人生き遺っていた親、幼年時代からの生活の記念
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