父の蔵書は後でどこかに寄附されたが、あのぎっしり並んで光っていた本箱の行方については全く知らない。
 やがて『少女世界』が私の本という新鮮な魅力をもって一冊一冊とためられ、冬の縁側で日向ぼっこをしながらそれをあっちへ積みかえこっちへ積みかえしていた心持が思い出される。もっともこの時分には、もううちの本棚への木戸御免で、その又本棚というのが考えれば途方もないものだった。居間のとなりに長四畳があってそこに父の大きいデスクが置いてある。背後が襖のない棚になっていて、その上の方に『新小説』『文芸倶楽部』『女鑑』『女学雑誌』というような雑誌が新古とりまぜ一杯積み重ねてあって、他の一方には『八犬伝』『弓張月』『平家物語』などの帝国文庫本に浪六の小説、玄斎の小説などがのっていた。その棚の下のどこかに鏡台がおいてあったのを思えばそこは主に母の本棚だったのだろうか。
 女学校の二年ぐらいから、玄関わきの小部屋を自分の部屋にして、こわれかかったような本棚をさがし出して来て並べ、その本棚には『当世書生気質』ののっている赤い表紙の厚い何かの合本や『水沫集』も長四畳のごたごたの中からもって来ておいた。
 父方の
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