素直になって」に傍点]、自分の生きかたを肯定している小説である。この場合にあらわれている主人公の知識人、意識人としての自分の本質を放棄した民衆性への追随と、民衆性[#「民衆性」に傍点]、庶民性[#「庶民性」に傍点]、その素直さ[#「素直さ」に傍点]などというものの解釈にある感傷的な甘さ、感傷的な観念性が、時代的なものとして関心をひくのである。
 今日ある年齢に達している知識人の何割かは親の借金で教育を受けている。さもなければ長男だからという理由で、「収獲以前」の主人公のように、将来の負担者として投資されて、家じゅうで只一人の大学出として教育され、知識人となっている。勤労家庭から長男が立身して、「皆を楽にさせた」時代はとうに過ぎているから、そのような経済的根拠に立って知識人となった青年たちの或るものが、「収獲以前」の主人公のように、自分の一身にそんなにもまざまざと反射している社会矛盾を自覚して、思想的に傾くのも自然である。
 多難な運動は、バラの道によって人類を解放させないのである。前衛としての知識人の負う艱苦、犠牲は運動の退潮期には猛烈であるから、一般的敗北の跡の検討ということは、冷静
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