傾向はこれに応じて必然に生じたのであり、更に一九二九年の恐慌以後今日に至る一般の不況は、益々深刻にこの社会的現象を展開させている。十年前に労働予備軍に加った人々の生活が低下しつつある傍ら、新しい青年層の無産者化が大量に行われつつある。それ故詳しく具体的に見れば、今日の大衆の実質の中には、画期的な多量さで知識人要素が内包されて来ているわけである。大衆の質も量も、この十年間に大いに変化して来ていることは否めない事実なのである。
日本に解放運動の思想が入って来た時分と今日とでは、知識人の社会的足場はずーっと動いて来ている。左翼運動の波が表面に見えた頃、進歩的な知識人の生活は経済的にも文化的にも比較すれば今日より高いところにあったし、文化的知的自由の範囲も広かった。
現在では、そういう指導的な方向が表面から隠されてしまわなければならない程社会の事情一般が切迫して来ており、知識人は全く大衆の蒙っていると同一の重荷で経済的にも文化的にも生活を切下げられている。手近な例として、今日の複雑な時局について、知識人は、どんな広い客観的視野、批判の自由を持っているであろう。こんにちの歴史の局面について世
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