のが現実のありようなのである。
 大衆課税、物価騰貴が大衆の双肩にかかっている。大衆の文化を圧する方策が、大衆の現実という名において大衆の頭上にふりかかって来ている。従って、大衆にわかる小説を書かなければならないという一見自明な『文学界』などの提案も、嘗てプロレタリア文学運動が、文学の大衆性と通俗性との相違を明らかにしようとして、作品行動の上でも努力した、その正当な努力の方向に沿うて再吟味することなしには、こういう外面の大衆への関心の底に横《よこた》わっている顕著な反動の本質が、指摘されない危険があるのである。

 ところで、ここに私たちの注意をひき且つ周密な自省を求めている一つのことがある。それは、文化面をもひきくるめてのこういう誤った全体主義の見かたが、どうして今日大衆の進歩的な部分、知識人の進歩的な部分によって、それが当然受けるべきだけ十分、論点をはっきりさせた反撃をうけずにいるかということである。その心理的な諸原因について、もっと鋭い各自の関心が向けられて、しかるべきではなかろうか。
 ヨーロッパ大戦後の中流層の没落は世界的規模において生じた。インテリゲンツィアの勤労者階級化の
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