すべきものでなくなって来ている。民衆の発展的因子としてひそめられている知的欲求は、そのような前進的欲求のないのが所謂《いわゆる》普通の[#「普通の」に傍点]民衆の一般な現実的感情であるという強引な結論と政策によって今日圧殺されているのであるし、知識人の一部は、所謂進歩的といわれる知識人達が求めているような合理性や人間性の自覚とその発露の要求は民衆の心持の日常から遊離した夢、公式であると高唱して、知識人みずから人間的知性の殺滅に動員されつつあるのである。小林秀雄氏などが、民衆は批判性をもたないものであるし、又そんなものを必要ともしていないと主張して、民衆の知性と文学における現実の批判性を抹殺しようとしたのは周知のことである。
 文化反動が、大衆・民衆の心持への結合というジェスチュアをもって強力に行われているのが、今日の重大な社会的特色であると思う。
 大衆といい、民衆といい、昨今は国民といい、極めて粗笨《そほん》な全体主義でおおうたもののいいかたをし、而もその全体の水準を生活全面で最低まで押し下げておいて、全体という言葉の逆用によって、大衆とその一部としての知識人の進歩性を窒息させている
前へ 次へ
全15ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング