ないことは自明である。きょうの私たちの生きる社会の現実の裡にあっては、悪質な反動として民衆の一般化・全体化観念に対して、民衆そのものの内的要因としての反動性と進歩性との相異をとらえ、同時に知識人の間に急激に生じている同様の分化の本質を理解し、その二つのものの結合、離反の作用に対して、世界史的見地から能うかぎり進歩的に処してゆくことが新たなヒューマニズムの内容をきめると思うのである。
 少数と多数ということも、今日の感情には微妙に反映している。たとい少数であり、微弱であっても、その健全性によって評価されなければならない事象は、正当に評価して、波動をひろげつたえて行く意志が、今日のヒューマニズムにおいて求められている。
 文学の面で、近頃亀井勝一郎氏、小林秀雄氏共々、文学評価の科学性というものに反対を表明している。従来、科学的といった評価は、単に文学作品の生れて来た社会の歴史的階級的環境、条件を説明するにとどまっていた。それでは芸術は分らない。芸術的価値というものは体験されなければならないことであり、体験は宗教的な要素と結びつき、信仰体験とならなければ、芸術によって人間が変貌することはあり
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