冷たさ、どこか病的なところを突き抜けた先の内田さんはどういう絵をおかきになるのだろうと思いました。
永井さんは大変才能のある作家だということを聞いていましたが、作品をみて私も同感しました。けれども、その蔵原惟人の肖像は、小説で言えばモデル小説です。かかれている人の名がわかって見る者は納得するというようなところがあって、画面そのものが何処やらただものでない一個の男をえがき出していて、おやと思ったら、或る人の肖像であったというような、画面の芸術的実在性が弱かったように思います。こんなことを言うのは、絵描きではないからでしょうか。顔は似ているけれど、画面での存在のし具合が、一個のサラリーマンの肖像とどれだけ違ったでしょうか。人間を描くということ、社会的・歴史的人間を描くということは、絵でも小説でも大仕事だと思いました。
この他幾つかの印象に残っている絵があり、一見平凡のようだったそれらの絵の作者のこの次の作品が楽しみのような気がします。カタログに記録をつけなかったので、はっきり画題までは言えませんが、「都民」という絵には光線がバラバラで画面のまとまりが悪かったけれど、生活的なおもしろさが
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