。皆、四周はしっかりして居るのだが、天井が落ちて中は駄目。
幸、高楠先生関係の本、歴史の本、その他少々たすかり、啓明会のは、大部分見出された由、大学が(この図書館の貧弱な日本で)図書館を失ってはまるで手も足も出ないだろう。
マックスシュラーの文庫は、到頭開放しないまま灰燼にしてしまった。
○何にしろ東京が此那有様なので、種々の注意は皆此方に牽かれ、全滅した小田原、房州の諸町へはなかなか充分手がまわらない形がある。
○東京は地震地帯の上にあって、いつも六七十年目百年目に此那大地震がある。建てても建てても間もなく埋[#「埋」に「ママ」の注記]されるそれをいつまでくりかえすのか。
○今度の朝鮮人の陰謀は実に範囲広く、山村の郷里信州の小諸の方にも郡山にも、毒薬その他をもった鮮人が発見されたとのことだ。
九月二十四五日より大杉栄ほか二名が、甘粕大尉に殺された話やかましく新聞に現れた。福田戒厳令司令官が山梨に代ったのもこの理由であったのだ。他二名は誰か、又どうして殺したか、所持品などはどうされたか。
高津正道、佐野学、山川均菊栄氏等もやられたと云う噂あり。実に複雑な世相。一部の人々は皆この際やってしまう方がよいと云う人さえある。社会主義がそれで死ぬものか、むずかしいことだ。だまし打ちにしたのはとにかく非人道な行為としなければなるまい。
国男の話詳細。
小田原養生館滞在、一日の朝、前日鎌倉へ行こうとして、山田氏に来られ駄目になったので、出かける。汽車、電車が案外早かった為、予定の一つ前のに間に合った。大船では発車、三分前、プラットフォームに出て歩いて居たが、もう入ろうとして車内に入ったばかりのところに、ゆるい地震が来ひきつづき、立って居られないほど、左右に大ゆれにゆれて来た。彼は、席の両はじにつかまり、がんばり、やっと、一次のはすぎる。もうそのとき、今迄居たプラットフォームはくずれ、出ようとした汽車の車掌が血まびれで、何処からか這い出して来た。下りの方のプラットフォームには、沢山の人が居、それが泣き叫ぶ声、救を求める声、言語に絶す。それから国男はすぐ汽車を出、レールにつかまって第二のゆり返しをすごす。それから鎌倉の方に行くものを誘い、歩いて、トンネルくずれ、海岸橋陥落のため山の方から行く。近くに行くと、釣ぼりの夫婦がぼんやりして居る。つなみに家をさらわれ
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