てしまったのだそうだ。倉知の方に行くと門は曲って立ち、家、すっかり、玄関の砂利の方にくずれて居る。家屋を越えて行くと庭に川島が呆然として居、呼んでも返事もせず。やっと心づき「お話ししなければならないことがある」と云ってやって来、叔母、季夫が圧死し、咲枝、一馬に助けられ、材木座の八百屋わきのトタン屋根の仮小屋に避難した由を云う。国男すぐ川島をつれ、途中ローソク、マッチの類を買って避難所に行く。
その翌日あたりから、朝鮮人が来ると云う噂が立ち、センセンキョーキョー、地震のとき、春江ちゃんの行って居たサイトウさんのところでは、奥さんが死なれその良人、子供二人、姉妹たち、皆一緒に居る。一日に玄米二合ぎり、国男空腹に堪えず。そっと咲枝ちゃんとビスケットなどをかじる。
三日雨
四日ぱっと照る。
両日の間に叔母上の死体を、小島さんのところに来た水兵の手で埋[#「埋」に「ママ」の注記]り出し、川島、棺作りを手伝って、やっと棺におさめ、寺に仮埋葬す。その頃、東京から小南着。
五日頃から、倒れなかった田舎の百姓家に避難し、親切にされる。幸、熱も始め一二日で出ず。
八日、倉知叔父自動車にて着。
九日、皆、藤沢をまわり、二子の渡をとおり、*の家につく。
十日、国男だけ林町に送られて来る。
藤沢に行く迄に網の目のように地われしたところがあるそうだ。われ目にはさまった自動車。
○倉知、叔母、ゆれ始めたとき女中と、二番目の小さい子と一緒に、おにげなさいと云うのにきかず食堂に居、二人(咲枝と季夫)をかばって、海に背を向け、大棟で背を打たれ、臀部に柱のおれたのか何かだかささったまま季夫チッ息して死す。咲枝は足を下にしかれ、夢中で手で天井を破って顔を出して居た。女中と二番の子が海岸橋を渡り切って下馬に来たとき、あとから渡った厨川白村氏がつなみにさらわれ沖に持って行かれた。
底本:「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社
1981(昭和56)年5月30日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第2版第1刷発行
初出:同上
※「*」は不明字。
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2004年2月15日作成
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