沫をただよわせて、蒼穹の彼方へと流れ去る。
 此の潮流を人間は、箇人主義又は利己主義と云って居る。
 私は、此の箇人主義、利己主義に大いなるものの歎嗟の吐息を聞いたのである。
 此の声を聞き得たのは私一人のみかもしれない。
 或る人々は、その様な事は誤った事だと、私の此れから述べる事をひていするかもしれない。けれ共、私は自分の五官の働きを信じて疑わない。
 私にとって、自分の眼、耳に感じた事が、自分に対しては最も正直な、或る事物に対する反影であると信ずるのである。
 そのかすかながら絶ゆる事のない歎きを聞く毎に私の心に宿った多くの事を私は明白のべるだけである。賞むる人、賞めない人のあるなしは、私の考を曲げる事は出来ない。

 箇人主義――利己主義、それは名の如く、何事に於ても、自己を根本に置て考え、没我的生活に対する主我的の甚だしいものである。
 主我!
 それは、真にたとうべくもあらぬ尊いものである。
 此の世に生れ出た以上は、自己を明らかにし、自己を確実に保つ事の目覚しさを希うて居る。
 何事に於ても、「我」が基になるほど確な事はない。
 神よりも自己を頼み、又とない避難所とし祈り
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