大いなるもの
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)何処《いずこ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)手|触《ざわ》り

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「さんずい+因」、424−3]
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 大いなるものの悲しみ!
 偉大なるものの歎き!
 すべての時代に現われた大いなるものは、押並べて其の輝やかしい面を愁の涙に曇らして居る。
 我々及び我々の背後に永劫の未来に瞑る幾多数うべくもあらぬ人の群は、皆大いなるものの面をみにくき仮面もて被い、其を本来の面差しと思いあやまって見ると云う痛ましい事実を抱いて居る。
 何物を以ても抗し得ぬ時代の潮に今日も明日もとただよいながら、しばしば私に迫り、ややもすれば私の四肢を、心臓をまひさせ様とした力強い潮流の一つを見出した。
 深い紺碧をたたえてとうとうとはて知らず流れ行く其の潮は、水底の数知れぬ小石の群を打ちくだき、岩を噛み、高く低く波打つ胸に、何処《いずこ》からともなく流れ入った水
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