答弁の精神的態度とでもいうべきものは、正面に自分の体の幅全体を向けて端然としているこのひとの体の構えと全く一致していて興味ふかい。壮重な声が一見、余りあたり前の、努力いたす決心であります。というようなことをくりかえすので、議員は笑う。首相に就任したときの軍装写真で、何となく下げている右手の拇指と人さし指をひとりでに軽く円くよせて、丁度仏さんの右手を下へ垂れたような工合になっていたのが、目にのこっている。あれは、このひとの粗笨でない心の或るリズムを語っているように感じた。しかし、一人の人としてのうまみ[#「うまみ」に傍点]というようなものが、多難多岐な客観的局面をどう展開させ得るだろうか。二つのことは常に必ずしも一致し得ないことを、過去の歴史も多くの実例で語っている。
 桜内蔵相の答えかたには、首相とまるでちがう一種の話術のようなものがあって、議席の空気はおや? とひかれ、なーんだとゆるんで、そこへ彌次がとび入るという工合である。強制貯金をさせるという気はないという意味にとれる答えが、いくつかの答えの中にあったが、その朝、貯蓄組合加入の紙が市役所のビラと一緒に町会からまわって来て、各戸最
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