ヴィンダー ふむ。湧くな。雲奴もただ事でない宇宙のざわめきに落付かれぬか。
カラ さあ、段々私共の足許も隠されて来ました。
ミーダ 出かけようぜ。
ヴィンダー 出かけよう。
カラ 今日おくれたりしては、一期の不覚です。(傍白)この吉日をとり逃したら又何時ふんだんな人間の涙と呻きが私の喉に流れ込むかしれたものではない。(皆去る)

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一面濛々とした雲の海。凄じい風に押されて、彼方に一団此方に一団とかたまった電光を含む叢雲が、揺れ動き崩れかかる、その隙間にちらり、ちらりヴィンダーブラの大三叉を握った姿、ミーダの鞭を振る姿、カラがおどろにふり乱した髪を吹きなびかせて怒号する姿、黒い影絵のように見える。声が聞える。
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ヴィンダー さあ、時は愈迫って来たぞ。
ミーダ 用意はよい。
カラ 気を揃えてかかりましょう。――あ! 揺れ始めたようですよ。うむ、確かに揺れ出した。大地の神のお目醒めだ。御覧! 空を飛ぶ鳥がいきなり大気の波動にまかれて、後から後から落ち始めた。
ヴィンダー や。忽ちあの五十層の建物が、木
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