スに盗ませた火と云うものの真の威力を知らせて呉れよう。水になんぞは怯じけるな!
カラ ああ、私の冷かな鉛の乳房も激しい期待でときめくようだ。この身にしみる叫喚の快い響、何処となく五官を爽かにする死霊の前ぶれ。――おや、あの木立もない広っぱに、大分かたまって蠢いていますね。
ミーダ 目に止まらずに恐ろしいのは俺の力だ。見ろ、慌てふためいた人間どもを、火が移ったら其ぎりの小舟や橋に集めて見せるぞ。落付いて身の振方はつけさせず、類で誘《いざ》ない、数で誘って、危地へすらりとかたまらせる。――舷に手をかけ、救けを求める奴なぞは叩き沈めろ! 孕み女が転んだとて、容赦なんぞはいるもんか。
ヴィンダー ――ところで、妙な軍装の奴が現れたぞ。今のところでは俺の味方に廻って、壊しやの手先になって呉れる奴か、或は又逆に鉾を向けて、所謂文明の擁護をする奴か、一寸見分けがつかぬ。
ミーダ ふうむ。武器を持っている。血相もどうやら変っている。何を彼那《あんな》に狙っているのか。……やったな。驚いた。俺さえ予定には入れていなかった此は一幕だ。――ついでに、一寸手を貸すかな。真実は根もない憎みや恐怖や、最大の名薬「
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