と若く、甦るのです。
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(使者去る)
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イオイナ ――神々は、私が余り人間の味方をすると云って憤られる。……けれども、あの、蝎《さそり》の毒でも死ぬように果敢ない肉体を持ちながら、精神ばかりは高貴な、不壊な者たちをどうして痛おしまずに居られよう。私には母の本能がある。自分の最初の形代人間が、渾沌から渾沌に亙る雄大な認識と、音楽のように豊かな複雑な感情を持ちながら、神が絶対を示そうとする運命に圧せられきる有様を、平然と見ては居られないのです。
  ああ此処でも、遙かな雲に遮られてはいるが、彼等の精神と意力のそよぎが感じられるようだ。ああ人間たち! 本当に、諸神が昔パンドーラに種々の贈物をされた時、私が何心なく希望を匣《はこ》の下積みに投げ入れたのはよいことであった。
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(歩み去りながら)
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  行って東風に頼んで来よう。少しはっきり下界の音を運びすぎる。――おやすみなさい、神々。(諧謔的に)今貴方がたの睡って被居るのは、私が醒てるより人間達のよろこびでしょう。(去る)
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ヴィンダーブラ、この時、悪夢に襲われたように低い呻き声を発して目を半ば醒す。そして、暫く不安げに四辺を見廻し、やがて寝ころんでいるミーダの方にのろのろ這いよって行く。[#地から1字上げ]〔一九二四年一月〕



底本:「宮本百合子全集 第三十巻」新日本出版社
   1986(昭和61)年3月20日初版発行
初出:「週刊朝日」
   1924(大正13)年1月1日号
入力:柴田卓治
校正:土屋隆
2007年8月14日作成
青空文庫作成ファイル:
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