下さい。(去る。)
ミーダ ――虫の好いことを云う。――どれ。(ごろりとなってヴィンダーブラを見る。)何だ。もう寝たのか、単純だな。(そう云いながら、自分も突伏し、ヴィンダーブラと交り交り鼾の音を高く立てる。)
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処へ、智慧、愛、想像の女神イオイナ光のように現われる。
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イオイナ 実は、心配して様子をそっと見に来たのです。(二神の様子を見)まあ、さも自分の仕事は成就したと云いたそうに眠入っていること。先刻の有様では、如何なることかと案じたが、この神々に、満足の感情と、倦怠と、眠りのあるのは有難いことです。暴れる時は、天地の軸が歪みそうで、天帝の眉さえ顰《ひそ》む程だが、必ずあとに、休止と云うものが従っている。
私は始めもなければ終りもない。夜も昼も区別をしない働き手です。余り身軽で、静かで、伴う物音がないから、時々行方をくらましたとさえ思われるが、明るい澄んだ心の光ですかして見ると、つい傍にいたのがわかります。
やっと、今鎮まったあの天と地との大騒動の間でも、私は私の任務を尽していました。彼方此方、随分とび廻って、さし迫った智慧や忍耐や互の助力をかしてやったが、破壊神や呪咀の神は、一向私の存在を見抜なかった。呪いの神が、破壊神を単純と嗤《わら》ったが――(晴れやかな微笑)云った者が必ず叡智に長けているとも思いません。私の白髪とこの透明な白衣とが、何の為だか一向知ろうともしません。私のこの髪と衣はどんな色でも光りでもそのまま映して同じ色に輝きます。火に入れば熱い焔色、燻《くすぶ》りむせる煙に巻かれれば見わけのつかない煤色になって、恐れて逃る人間達を導き導き空気とともに勇気を与え、必要な次の営みにつかせます。際立った音と目立つ象を持たないからこの神々の容赦ない視線も逃れ、場合によると、活気を添える味方とさえ思われる。それに、破壊神呪咀の神は、自分の正面に来るものしか見えないのが特性です。三方は明いている。そこが私の領分です。どんな破滅が激しかろうと、虐げようが厳しかろうと、男女一組の真直な人間がその三方の何処かに逃る隙さえあれば、きっと私の手が待ち受けてい、つつましく根気よく次代の栄をもり立てるのです。
――おや、微な気勢《けはい》が近づいて来る。私になじみのあるもの
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