おいて、科学、哲学、宗教に関する真理文庫をつくったり」、講習をしたりすること、健康増進をはかりたい等説明しているのである。そしたら「十年二十年の間に見ちがえるような東北地方が出現するであろう」と思うというのが友松の意見であるが、果してそれが現実の問題としてどの位しっかりした具体性をもっているかということになると、私は恐らく文芸春秋の全読者が、あまりハキハキした肯定的な返事はしないであろうと思う。
昔から有名な宮城野信夫の義太夫は、既に東北地方から江戸吉原に売られた娘宮城野とその妹信夫とを扱っているのである。殿様、地頭様、庄屋様、斬りすて御免の水呑百姓という順序で息もつけなかった昔から、今日地主、小作となってまで東北農民の実生活は、果してどの程度の経済的向上が許されたであろう。アメリカと交歓ラジオ放送が行われている今日東北の農民は床の張ってない小屋に家畜とすんで地べたに藁をしいて生活している。徳川時代でも、地べた以下のところで生きていたのではないであろう。日本の農民生活は、原始的な状態のまま搾られとおして、今日この複雑な国際経済関係のただ中にねじこまれて来ているのである。
宮城野信夫
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