霜柱
宮本百合子

 冬の日の静けさは何となく一種異った感じを人に与える。
 黄色な日差しがわびしげに四辺にただようて、骨ばかりになった、木の影は、黒い線の様になって羽目にうつって居る。
 風もない。木の葉が「かさ」とも「こそ」とも云わない中に、私の下駄の下にくずれて行く霜柱の音ばかりがさむげに響いて居る。
 どんよりとした空に、白い昼の月が懸って灰色の雲の一重奥には、白い粉雪が一様にたまって居るのじゃああるまいかと思われる様な様子をして居る。
 今年の秋は、いつになく菊をあつめたので、その霜枯れてみっともない姿が垣根にそうてズラリとならんで居る。
 茶色の根の囲りに土の中から、浅いみどりの芽がチョンビリのぞいて居るのが、いかにもたのもしく又いじらしく見える。
 木が多いので、春から夏にかけての庭は、おっとりして森の一部を切り開いて住んで居る様でいいけれ共、それだけ冬が来ると淋しい庭になる。
 萩などは、老人の髪の様に細く茶っぽくちぢんで、こんぐらかって、くちゃくちゃになって居るし、葉をあらいざらいはらい落して間のぬけた大きな体をのそっとたって居る青桐の下の笹まで、黄色い毛糸のかたまり
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