を、ころがした様になって居る。
 何となし、すきまだらけの景色の中に、運動場つきの小屋の中で菜をたべて居るレグホンの真白い体と、火の様な「とさか」が抜け出して美くしい。
 鳥をねらって来る野良猫が、足をどろだらけにして、尾をすぼめてノソノソといやな眼をして通って行く。
 あんまり、貧乏くさい様子で、追う気もしない。
 ころびそうな足元で庭を一順廻ると、温室のくもりガラスを透して、きんかんの黄色な実が、ぼんやりと花の様に見えて居る。
 青くて買って来た実も、知らないうちに熟したものと見える。
 七つ八つの頃、きんかんが何よりすきで、祖母と浅草に行くときには、きっと糸で編んだ袋に入ったきんかんを買ってもらった事を思い出す。



底本:「宮本百合子全集 第三十巻」新日本出版社
   1986(昭和61)年3月20日初版発行
※底本解題の著者、大森寿恵子が、1914(大正3)年から15(大正4)年にかけての、冬季の執筆と推定する習作です。
入力:柴田卓治
校正:土屋隆
2008年2月28日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.a
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