いう切迫した事態に立ち至ったとき、或る区に食糧管理委員会が出来て、板橋でやったように、どこかに隠匿されている食糧を発見し、ああいう風に特配したとする。その場合、警視庁は、その方法を適当と認めていないのであるから、何かの形で取締ろうとするであろう。そんな場合の民衆が、単純に取締られるものでないことは、ひとも我も知っている。小競りあいも、空腹が先に立っておれば、荒々しくなりかねない。双方が力ずくになったと仮定して、そのごたごたはどういう法律上の行動として呼ばれるのだろうか。このことを、私たちは、十分の上にも十分、考えめぐらして見なければならない。
 市民が、食糧問題にからんで、ごたついたとき、当局が、それに対して名づける罪名に事欠いていようとは、決して決して思われない。
 法律だけで、現実の辛苦は解決しないから、その対象となった市民たちは、勿論承服しかねるのだが、そこに人間の心理の機微がある。承服しない市民の感情が、どこに向うだろう。真直《まっすぐ》、実際の責任者である政府、支配権力に向うだろうか。そこまで万遍なく明快であろうか。まだまだそこまでが一般水準とは言えない。どうも、百姓が米を出
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