からいうと、どうしても、私たちは「板橋事件」強制供出その他一つらなりの食糧問題解決への場面で起った現象をももうすこし細かに観察し、学ぶべきことがあると感じる。
第一、農林省は現に自分の懐の中に、官吏たちの団体行動をはらんでおり、それは食糧の人民管理を叫んでいるのに、本気で、農民に、強制手段で向う心算であろうか。
健全な常識は、この疑問に対して「まさか」と答える。まさか、政府も強制して買上げたからといって、おいそれと出て来る今年の米でないことは十分わかっているだろう。もし、そうだとするならば、第二の問が生れて来る。出来にくい相談と分っているものを唯さえ、無策無策で信頼を失っている今日の政府が、念入りに何故、農民に向って新しく出しかけるのであろうか。
わたしたちが、一人民として、大いに洞察しなければならない社会的なモメントはここの点にかかっている。一見、愚劣と思われ、誰しも反対すると思われる方策を、政府が強権によって発動させる、という、その技術上の意味を、わたしたち人民は見抜く必要があるのではなかろうか。
宮城のみならず、おそらく、日本じゅうのあらゆる農村で、強制供出案は、うけいれ
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