人間イヴの誕生
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
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(例)[#地付き]〔一九四九年十一月〕
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この新聞に、若い女性のための頁がおかれるようになったことは、うれしい。
日本の女性の生活は、この四年の間に何といってもかわって来た。きょう一部の婦人雑誌が何かのマニアにとりつかれてでもいるように恋愛と性にはまりこんでいて、わたしたちにほしい科学的な性の知識や人生の設計としての愛情の問題からは遠くずれおちた絵そらごとやきたならしい猥談で、少女たちの好奇心までを餌じきにしているところを見ると、実に日本のひどさが思われる。封建的であればあったで女が非人間的にあつかわれた。植民地化されて慰安のストリプト・ティーズが公然演じられるようになると、人間の性が自然に保っているまじめさ、おのずからに精神がそこに浮ぶ性の行為が、こんどは、逆上した露骨さでひろげられている。
矛盾だらけで、本能的で狭い生活から解放されていない女というものを、自分が女だから一層きらいだと思っている女性はきょうの日本に少くないのかもしれない。『週刊朝日』で、高田保氏と対談している幸田文氏は、その意味のことをいっている。自分が女だもんだから女のことは大体わかるのでという風に。
わたしは、偶然、そのところをよんで、何となし考えこんだ。こんにち、ほんとに女のことのわかっているといえる女が幾人あるだろうか、と思って。日本の女性のかわったのは表でかわるよりも、その底流でひどくかわって来ている。表面からばかり見ると、或る意味では落ちた花が浮いている池の面のようで、見てすぎるだけのもののようだけれども、たとえば、きょう十七八歳になっている若い女性たちの中には、女学生の中にも職場に働くひとの中にも、女優のなかにも、新しいタイプが育ちはじめている。三月八日の婦人デーに、人民広場に集った組合の若い女性たちの写真には、何という新しい若い日本の女性の美しさ、健康さの輝く顔があったろう。若い女学生のうちに新しい理性や社会感情の人間像があらわれてもいる。きょうの女のことは、わたしたちが思っているよりも大規模に、複雑になって来ている。
去年の十二月、ブダペストで開かれた世界民主婦人連盟の第二回大会では、日本のわたしたちが心をうたれるいくつかのスナップ写真が
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