とられている。そこには白い朝鮮服をつけて、うれしそうに代議員席にあって拍手している南北朝鮮からの代表チュ・エンたちの姿がある。しっかりとして、たくさんの苦労をしのいで来ていることが報告をよんでいる五十がらみのその顔つきににじみ出ている中国代表のツァイ・チャンや、作品でなじみのあるフランスのユージニ・コトンや副議長であるソヴェトのニナ・ポポヴァの立派さに加えて、これらのアジアからの婦人代表たちが、堂々と帝国主義の侵略とファシズムに反対して、民族の独立と平和を主張している姿は、わたしたちの目に涙さえ浮ばせる。朝鮮服を着て、朝鮮の姓名をなのって、朝鮮の言葉で話すことさえ、日本の植民地政策で禁じられていた朝鮮の女性たちが、きょう世界に向って自分たちの民族の幸福のために発言するよろこびはどんなに深いだろう。中国代表は、いよいよ中国人民が植民地人としてのくびきをその肩からなげすてるその前夜に、ここで語っているのだった。
日本からの代表の影はブダペストのこの大会に見えなかった。今年の夏のパリの平和会議にも見えなかったし、プラーグの第二会場にも現れなかった。だけれども、それなら日本には、戦争に反対し、国の内外のファシストとたたかい、平和のために心をくだいている婦人もいず、その団体もないのだろうか。そうでないことは、当時行かれなかった日本代表たちのメッセージを見てもわかる。講和についてのおとといの首相の演説は、何よりさきに、わたしたちに次のことを警戒させる。来るべき講和がどういう形をもってはじまるにせよ、その条件として日本が「次の戦争に利用することのできる八千五百万人」の生きている戦略的な地点として扱われることがあってはならない、と。近くもたれようとしているアジアの国際婦人民主連盟の大会でわたしたち日本の女性は、自分たちと世界の災厄をふせぐために、ベトナムの若い代表婦人が、ブダペストから世界の良心にアッピールしたように、アッピールする機会をもたなければならないと思う。
女は、新しい人間イヴとして生れつつあると思う。[#地付き]〔一九四九年十一月〕
底本:「宮本百合子全集 第十五巻」新日本出版社
1980(昭和55)年5月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十二巻」河出書房
1952(昭和27)年1月発
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