性の力を崇拝した。原始社会に広く行われた信仰の一つである性器の崇拝は、人間創造の自然力に驚嘆した我々の祖先の率直な感情表現であった。
こういう時代には人類の男女は生物的に自然に従えられていただけであった。だから山の獣が自然の魅力で異性を見出し、それに引きつけられて行く限りでは、そこには人間の雌である女があり、人間の雄である男が存在するばかりであった。家族関係というふうのものも近代の意味では確立していなかったから、互いにとって親族的な縦横の関係は無視されていた。いいかえれば、母、姉、妹の関係が明瞭でなくて、そこには若さの差別のある女が存在したばかりだったし、それらの女にとって父、兄、弟という存在はやっぱり若さの違う男の存在として現れた。今日、私どもが考えているよりも遙かに長い歴史の時間に渡って人類のこういう原始的な性関係があったらしい。こういう関係の中では、性格とか気質とかいう問題はあり得なかった。人間そのものが性格を持つまでに分化発展していなかったのだから。
ひき続いて母系の時代が現れたことは周知のとおりである。続いて人類社会の生産の様式が発達し、奴隷が出現し、財産というものが社
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