好きです。嫌いなのは、黙阿彌張りか何かで、それでいて新作まがいの中途半端の芝居です。
活動写真も好きです。しかし網野(菊)さんほどではないかも知れません。網野さんの活動好きにはおどろきます。
わたくしは他にお能を好んで見ます。あの衣裳の色の配合なぞ立派なもので感心させられます。この頃も桜間金太郎氏の「巴」を見て、その狂言の、罪のない、好意のもてるずるさ、というようなもののあるのを非常に面白いと思いました。
旅行
旅行にはよく出かけます。今年もお正月は湯ケ島と北海道へ旅をしましたし、四月から五月へかけて九州を一週したりしました。わたくしは海より山の方が好きです。山に変化はないという人がありますが、わたくしはそう思いません。霧だの靄だの雲だの虹だののさまざまな変化は容易に見飽きるものではありません。殊にわたくしは、湖水や溪流のある山を好みます。ですから、わたくしは今まで「疲れた、海へでもゆこうかしら」なぞとは言ったことがない。いつも「山へ」と思います。
温泉もすきです。しかし、設備のいいところでなければいやです。尤も設備の整った温泉場となると、ドンチャン騒ぎの遊山客がくるので困ります。ドンチャン騒ぎも一日や一晩ぐらいなら、わたしだって面白いと思いますけれど、毎日毎晩ではやりきれません。
入浴、髪
風呂はすきですから毎日はいります。髪は今まで人の手で結んで貰ったことは一度もありません。いつも自分でグルグルと巻きつけて置くだけです。
創作前後のこと
創作にとりかかると、そのことばかり頭にあって、前述のとおり、朝食後新聞も読まずに机にむかうという風で、そして、一つ創作が出来上らないうちに、他のものを書くというような器用なわざはわたしには不可能で、あちこちから三つ四つと一ぺんに頼まれても、一つ一つ順繰りに書き上げてゆくのです。
朝、ペンを執るとお茶も飲まず何もしないで一気に書きつづけます。それでも遅筆の方で、一日平均五枚ぐらいしか書けません。
執筆中、これという気になることもありませんが、ただ風の音は嫌いです。
書斎と原稿用紙
書斎の光線は薄暗いのが好きです。夏なぞ、わざと障子を閉め切ります。暑くて辛らいのですけれど……。
原稿用紙は、本郷松屋の四百字詰青罫のを用いております。ペ
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