して物を云っていたことに、私は好意と気の毒とを強く感じた。そして、そんなに女親をとり乱させる試験というものをいやに感じた。
舟橋聖一氏が四月号の『文芸』に「愛児煩悩」という短篇をかいておられるが、そこにも女学校入学試験のために苦しむ親の心、子の心が語られていて印象にのこった。口頭試問というものが、いろいろむずかしい問題をふくんでいるということが、この小説から与えられた印象の焦点をなした。G学園とかいてある。自由学園のことかもしれない。試験の日、そこで娘さんが、「賑やかなところへは何処へ行きましたか?」と試験官に質《たず》ねられて、素直に「銀座へ行きました」と答える。その問答をうちへかえって両親に話すと、父親は直感的に「銀座と云ったのか、それはすこしまずかったかな」と憂いの表情を浮べるので、子も不安がる。そんな思いをさせてはわるいと、子供を戸外へやることが書かれている。
父親は、すぐその答えから、試験官が銀座なんかへよく行く子はよくない、と思うだろうという恐怖を持ったのであった。
小説の父親の考は、では、賑やかなところと云えば、どこを指したら満点なのだろうかというところまではふれら
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