新日本文学の端緒
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)駭《おどろ》くべき

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)一つのたつきの道[#「たつきの道」に傍点]ではない。
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 満州事変以来今日までの十四年間に、旧日本の文学が崩壊しつくして行った過程は、日本文学史にとって未曾有のことであるばかりでなく、世界文学の眺望においても、駭《おどろ》くべき一事実ではないだろうか。
 戦時下、西欧の多くの国々が文化の混乱と貧困とに陥った。けれども、それは日本におけるように文学精神そのものの喪失ではなかったと思う。更に心をうたれるのは、日本文学のこの惨憺たる事実が、文学者自身の問題として十分自覚さえもされていないように見えることである。
 文学は本質において一つのたつきの道[#「たつきの道」に傍点]ではない。私たち総てが、この数年来経つつある酸苦と犠牲とを、新しい歴史の展開の前夜に起った大なる破産として理解し、同時にそれは生き抜くに価する苦難として照し出してゆく力こそ、悲劇においてなお高貴であり、人間らしい慰めと励ましとにみちている文学精
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