る。そして、段々旅行の終りになったことをたのしんでいる。
――これでウラジヴォストクまでにもう何時間おくれるだろうね。
――五時間は少くともおくれるね。
――まあいいや、どうせウラジヴォストクより先へこの汽車は行きっこないんだ。
廊下で誰か男が二人しゃべっている。
東へ来たらしい景色である。樹にとまっている雪がふっくり柔かくふくらんでいる。
夜食堂車にいたら、四人並びのテーブルの隣りへ坐った男が、パリパリ高い音を立てて焼クロパートカ(野鳥の一種)をたべながら、ちょいと指をなめて、
――シベリアにはもう雪がありましたか?
と自分にきいた。ほんとに! 沿海州を走っているのだ。
食堂車内は今夜賑やかだった。ずっとモスクワから乗りつづけて来たものは長い旅行が明日は終ろうとする前夜の軽い亢奮で。新しく今日乗り込んで来た連中は、列車ではじめての夕飯をたべながら。――(汽車の食堂は普通の食堂《ストロー※[#濁点付き片仮名「ワ」、1−7−82]ヤ》より御馳走だ。)シベリアに雪はあるかと訊いた男が通路のむこう側のテーブルでやっぱりクロパートカをたべている伴れの眼鏡に話しかけた。
――ど
前へ
次へ
全27ページ中20ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング