人がつかまって書類が廻ったからいいが……
 これで分った。一昨日食堂車へわたるデッキの扉のガラスが破れた時、何心なく、
 ――誰がわったの?
ときいた。すると、やっぱりこの若い、党員である車掌は珍しく不機嫌に、答えた。
 ――知らないです。
 車掌は七十五ルーブリの月給を貰っている。СССРで勤労者は多くの権利をもち、例えば解雇するにも、工場で作業縮小の場合一ヵ月の内三日理由なく休んだ場合、二ヵ月以上収監された場合の外、大体労働者の承諾を必要とする。その代り責任はがっちり肩の上にかかっている。

 十一月一日晴。
 チタを寝ている間に通過した。一時間時計が進んだ。
 〇時五分すぎ。
 小さい木橋の上で列車が止った。
 窓へ顔をくっつけて左手を見ると、そっちに停車場らしいものが見える。が、そこまでは遠く列車の止ってるのは雪に埋もれた丘の附近である。
 ――何てステーション?
 ノヴォミールが廊下できいている。
 ――木のステーション!
 人形を手にぶら下げて、わきに立っている姉娘が返事した。
 むこうの方で、別の男の子が父親に同じ質問をしている。
 ――誰にも分らないステーションだよ。

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