会の状態であるとは、いいかねます。国民学校の教育も戸惑っている形ですし、住宅難の問題もあり、子供は可哀そうに、悪くなってゆくどっさりの条件の中に、さらされております。

 こういう困難の中で、公明正大な人間を作ろうとするのは、理想論だといわれるかもしれません。しかし、子供は実に敏感です。
 同じ辛苦をしながらも、親たちが、いつも明るい愛と勇気と、率直公平な物わかりよさをもって困難をしのいでゆくならば、子供たちは、困苦の中にも伸び伸びとして育つものです。これまでにしろ、誰が金持の子なら必ず立派だと考えていたでしょう。却って、あれは、金持の息子さ、という言葉には、人間として、余り期待しないという意味が仄めかされていたではありませんか。

 躾の根本は、真面目に社会のために働く人間としての誇りの自覚であると、信じます。

 こまかい実際問題として、躾の一つに欠かされないことがあります。それは、これからの日本人は、ひとから意見を問われたとき、これまでのように、あいまいに「サア、私はどうでもいいんだが――」という風な返事をしないようにならなければならないということです。問われたことをよく考えてみ
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